…晴れた夏の夕空を突き抜けていく、美しい一機の航空機。
高2の夏休みをロサンゼルスの知り合いの家で過ごすため、
僕は少々興奮気味な面持ちで、機内のシートに背中を沈めていた。
気詰まりな日常から脱出して、異国で過ごす初めての夏休み…
それは僕を現実の夢魔から遠く分かつに十分なだけの魅力に満ちあふれていた…
だが、運綿の腕(かいな)からは逃れられぬと言わんがごとく、
…『それ』は起きた。
トオル | (…?なんだか乗務員の様子がおかしいぞ?) |
トオル | (食事を下げたまではよかったけど みんな…焦ってるみたいに見える…) |
トオル | わっ!! |
女の子 | きゃっ!! |
トオル | なんだ?ぐらっと来たぞ! |
− | ただいま機体の揺れが激しくなっております! |
− | シートベルトの着用ランプが消えるまで席をお離れになりませんよう… |
− | お願い申し上げます! |
女性客 | 何があったんですか?こんなに揺れるなんて普通じゃないわ! |
男性客 | スチュワーデスさんや!酒でも出してくれんかのぉ? |
男性客 | とてもじゃあないがシラフでなんぞいられんわぃ! |
女学生 | ねぇ どうなっちゃうの…?…わたし達… |
女の子 | 怖いよぉ…! |
乗務員 | じきにおさまりますわ。心配しなくても大丈夫でしてよ! |
女の子 | …だって… |
乗務員 | お客様 この小さなレディをお願いしてもよろしいですこと? |
トオル | え?…あ ああ いいですけど… |
トオル | いったい何があったんですか? |
乗務員 | ちょっと原因は今のところわかりませんけれどご心配はいりませんことよ |
乗務員 | これくせらいはよくあること!…でもないですけれど…とにかく! |
乗務員 | ご心配は無用でございますわ! |
− | いやな想像がどんどん頭の中で膨らんでいく… |
− | ちょうど10年前、親父とお袋の命を奪ったこの空を越えていくことは、 |
− | 生涯かけても許されぬさだめであるかのように… |
− | 離陸してわずか3時間後。 |
− | 初の海外旅行は空の上で |
− | …終わりを告げたのだった… |